協会の活動状況・会員からの寄稿
SYMPOSIUM_4

アメリカ・イスラム・中国  新政権の日本外交を語る
9・11から5年——激動の国際情勢を多角的に分析


4 新政権の外交——東アジアと日米関係

 それでは日本の外交の話に移ります。その前に、最初にお願いした質問のことですが、5 分ぐらいしたら集めにまいります。質問は、できるだけ1項目でお願いします。
 さて田中さん、世界の国際社会の状況がさまざまな側面から映し出されたと思いますが、田中さんは先日、ある新聞に「アメリカのレーダースクリーンから、日本というポイントが消えてしまった…」と書いておられました。なんだかんだ言ってもやはりアメリカを基軸に国際情勢が動いているなか、日本がそのレーダースクリーンから消えてしまうのは困る、という気がします。その言葉の意味を含めて、これからの日米関係、あるいは日本の外交の方針、日本が置かれている状況について、ひと言お願いいたします。

田中 私は方針を述べる立場にはありませんので、私が思う日本外交の姿という観点から申し上げたいと思います。先ほど、五百籏頭さんに褒めていただいたのか、けなしていただいたのかわからないですけれど(笑)、私は外交のあるべき姿とは、待って受動的に対応するのではなく、「チャンスをつくって結果を出す」ことだと思っています。外交とはそのためにある。
 しかし日本の外交はこれまで、やはり待って対応せざるを得なかった。東西関係という大きな枠の中での話ですから、それをやるのはなかなか難しかった。さらにもうひとつは、日本自身がいろいろと欠点を持った国であった。経済構造の点でもそうだし、安全保障においてもアメリカに依存する体制から抜け切れていなかった。ところが、それが変わってきた。日本の安全保障政策もより実質的なものになってきたし、経済構造も開かれてきた。しかも、はるか昔に、冷戦は終わった。これほど日本が能動的に動ける時期、あるいは日本が望ましいと思う秩序をつくれる機会というのは、いまを外せばもう無い。相対的に、周りにも大きな国がどんどん出来てきていますから、そういう意味では“いまが大きなチャンスの時である”と私は思っています。
 そうしたなかで、日米関係が非常に大事であることは間違いない。しかし、私は小泉さんが言われたように「日米関係さえよければ、すべてよし」という説はまったく採らない。日米関係万能論は、非常に危険だと思います。国家というのは、そんなにナイーブなものではない。だから日本という国が守るに値するのであれば、アメリカは守る。世界の統治という観点からそれが必要だと思うときには守る。私は外務省に37年間おりましたが、その間ずっと考えてきたことは「いかにアメリカとの関係でより対等な相互の関係がつくれるか」ということでした。もちろん、外にはそういうことは出さないのですが…。
 また、その意味では安全保障政策の中でも、より日本の役割を想定しながらずっとやってきた。私は、やはりアメリカとの関係においても一定の緊張感は必要だと思う。そして、日本は集団的自衛権の解釈を変えるべきだと思っている。世界の中で日本を除いて、“外に出て”いながら集団的自衛権の行使ができないのは日本だけです。それができない理由、あるいは何が集団的自衛権で、何がそうでないのか、それさえまったく理解されていないという実情。もう、こういうフィクションに基づいて日本の安全保障政策を語る、というのは止めた方がいい。こんなことばかりやっているから、日本はまさにレーダースクリーンから消えてしまう、ということなんです。私は、集団的自衛権の解釈を見直して、それを行使できる場合をきちんと法定すべきだと思います。
 そういうことをやりながら、日本が自らの責任を果たしていく。小泉・ブッシュ関係がよかったから日米関係がいいということでは、まったくない。確かに、ケミストリー(化学反応)は大変あった。だけど、何故あれだけブッシュ大統領が小泉さんを評価したかと言えば、アメリカにひと言も「自衛隊」ということを言わすことなく、日本の判断で自衛隊を出したからです。タイムリーにアメリカを支持した。決して、アメリカに言わされたわけではない。小泉さんという人は、「自衛隊の派遣ということを相手に要求させるな」ということに非常にこだわった人でした。これは象徴的なことであるけれど、本来あるべき日本の姿です。アメリカのプレッシャー、圧力の中で物事を進めていくというやり方ばかりでいくと、これからは却って日米関係は脆くなります。ですから、そういう意味で日本は、やるべきことはやらなきゃいけない。自分の責任でやるということ。
 同時に、東アジアとの関係を悪くして、日米関係を強化するのも自己矛盾です。こんなことはあり得ない。アメリカにとっても、先ほどの国分さんの話もそうでしたが、アメリカはやはり利益があるから中国との関係を語っているわけです。その東アジアにあって、役割を果さない日本など、アメリカにとって魅力のない存在です。そういう意味では、日本はやはり東アジアとの関係をつくらなければいけない。
 また、その際に、靖国に行くなと言われて「行くか否か」という議論は、私はあまり好きじゃない。先ほども申し上げたように、待って受動的に行動すれば、結局は分の悪いところで物事が決まってしまう。やはり、選択肢が増えた日本としては、能動的に物事をつくっていくべきで、しかも今それがものすごい好機である。
 そこで中国との関係ですが、私は本当の問題を見なければいけないと思う。それは決して、靖国を訪問するか否かということではありません。本当の問題はむしろ“歴史をどういう位置づけにするか”ということです。安全保障政策の透明性をより高めるために何をすべきか、そしてエネルギーや環境問題についてはどうあるべきか。皆さん、今から 10 年後を想像してみてください。いま中国のエネルギー効率が日本の 10 分の 1 で、それが 10 年後どういう状況になるか——。私はそれを考えると、背筋が寒くなります。黄砂が来ていますし、中国の環境悪化が今後の日本にどれだけの影響を与えるか。これは中国だけの問題ではなく、すでに日本の問題でもある。したがって、問題を真正面から捉えていくというのが、日中関係にとってはものすごく大事なことです。そうやって 5 年後、10 年後、日本が安全に生き残っていられるような日中関係をつくり直す。これは歴史始まって以来の出来事です、東アジアに日本と中国というふたつの大国が並ぶのは…。ですから、大国としてあるべき環境をつくらなければいけない。
 朝鮮半島については、先ほど申し上げたとおりです。それから、「東アジア経済共同体」というのは夢があるし、大好きですから、ぜひ進めていくべきだと私は思っています。それから、安全保障については、いわゆる海賊とか不核散とか、エネルギー安全保障もあるにはありますが、ハードな安全保障でなく、むしろ“協力的な安全保障”を、アメリカを入れた形でこの地域にひとつ枠組みをつくっていけないものかと思っています。
 つまり、私の主張は「待って反応するという外交はもう止めましょう」ということです。


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2006年12月29日(掲載)
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