協会の活動状況・会員からの寄稿
SYMPOSIUM_2

アメリカ・イスラム・中国  新政権の日本外交を語る
9・11から5年——激動の国際情勢を多角的に分析


2 世界はアメリカを好きか? 嫌いか?

 こうした世界情勢のなか、私は今、アメリカの力に少し翳りが出てきたのではないかと見ております。たとえばアフガニスタン、イラク戦争とこれまでのアメリカは強い政治力・経済力、あるいは圧倒的な軍事力でずっと一極支配を続けてきました。しかし、どうも最近の世界の風景は、アメリカに対して反発が世界中に広まっているように見えます。まず、酒井さんにお聞きします。中東から見て、アメリカの風景は変わってきているのでしょうか?

酒井 もちろん、イラク戦争が行なわれた時点で、中東にはアメリカに対する不信感と言いますか、彼らの言い方をすれば「とうとうアメリカに侵略されてしまった」という意識が非常に強くあったと思います。しかし、それでもイラク戦争だけであれば、まだマシだった。それほど深刻な問題にはならなかった。ところが問題は、アフガニスタンとイラクの戦後の復興の仕方です。
 たとえ戦争があっても、そのあとに国が前より少しでも良くなってくれれば問題はなかったでしょう。しかし、どう見ても今の状況は、少なくともイラクに関して言えば、戦前よりも圧倒的に悲惨な状況下にある。多国籍軍の死者は 2,700 人を超えているし、イラク人の被害に至ってはこの半年間でさらに鰻のぼりに増えています。あるいはイラクの陰に隠れて忘れがちですが、アフガニスタンのほうもかなり怪しい状況になってきています。アメリカ兵だけではなく、むしろイギリスやドイツが被害に遭っていて、そこでの被害者数が非常に増えています。
 段々と、段々と「あの戦争は何だったのか」という声が、中東の人たちの間だけでなく世界中に広がってきていると思います。
 また、最近の嫌な動きとしては、ヨーロッパに住むイスラム教徒の移民ですとか、移民第二世代といったあたりでジワジワとそのムードが高まっていること。世界でイスラム教徒一般が非常に不公平な目に遭っている、という意識がジワジワと高まりつつあることが怖ろしいです。
 たとえば、先日も“イスラム教に対するローマ法王の不適切な引用”というのがニュースになりました。そして、あの事件は典型的だと私は思うのですが、ローマ法王が実際にどういうコンテクスト(文脈)の中であの発言をしたか——実は、イスラム教徒のほとんどは内容を知らない。ローマ法王は大変難しい問題について語ったわけですが、その内容についてはほとんど触れられていない。一方、ローマ法王がイスラム教について何か「不適切な発言をした」ということだけが、ものすごい勢いで、それこそ中東だけではなくヨーロッパの移民社会、あるいは東南アジアのイスラムにも伝わっていって、それがデモやいろいろな形での政治行動となって現れていく。今年初めの預言者モハマドの漫画事件のときも同様でしたが、今、ちょっとしたことで全世界のイスラムが実態もよくわからないままにワッと反発だけをおもてに現す、というムードが今年に入ってから確立されてしまいました。それが今後どんな形で政治的な展開をするかはまだわかりませんが、ムードとしては、非常に嫌なムードが漂っているという気がいたします。


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2006年12月4日(掲載)
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