協会の活動状況・会員からの寄稿
SYMPOSIUM_1

アメリカ・イスラム・中国  新政権の日本外交を語る
9・11から5年——激動の国際情勢を多角的に分析


 ただ今より、シンポジウムを開始いたします。
 その前に、先ほどお伝えした質問用紙ですが、8 時頃に係りの者が集める予定です。それから、伊藤さんは紙面審査委員会が入ってしまい、彼は座長のためどうしても外せなくなり、西川さんにお願いしました。パンフレットには載っていないので少しプロフィールを紹介します。西川恵さんは毎日新聞でテヘラン特派員、パリ特派員を 7 年、さらにローマ支局長、外信部長、論説委員などを務めてこられました。“食卓外交”などからみた国際政治、また各国の文化にも非常に精通しておられます。

1 北朝鮮の核実験問題

 それでは早速、始めます。今回のシンポジウムは物の見事にと言うか、実に素晴しいタイミングでの開催となりました。そもそも新政権スタートの 2 週間目ぐらいを狙って日時を設定したのですが、私たちの予想以上に、ホットな話題が集中するなかでの開催となりました。目前に日中・日韓首脳会談を控え、さらに先日は北朝鮮が核実験の宣言をしました。
 そこでまず、いちばんホットな北朝鮮の核実験の問題から入っていきたいと思います。北朝鮮問題といえば、それこそ田中さんが拉致問題やその他で随分活躍されてきました。北朝鮮が「核実験をするぞ」と宣言し、その意図やタイミングについてはさまざま言われていますが、気になるのは、これによって北朝鮮にどんな落としどころがあるのかという点です。アメリカを直接対話の場に引き出すとか、いろいろ言われていますが、田中さんはどうお考えでしょうか?

田中 北朝鮮とずっと交渉してきた立場から言いますと、北朝鮮の行動をみて常に思うことは、「予見性がない」ことです。彼らの論理は常に“戦場の論理”であり、そういう意味では軍事戦略中心の“先軍政治”などとも言われていますが、非常にタクティックス(tactics:戦術的)に考え、行動する。したがって、結果的に北朝鮮が核実験をするかどうか現時点では予測がつかない。ただひとつ言えることは、この問題が起こったこと自体、日本にとっては非常に深刻です。安倍総理が「許容できない」と言いましたが、まさにデッドラインに近いでしょう。この地域の安全保障、さらには環境をも大きく変えてしまいます。
 その意味では、私は北朝鮮が核実験をやらないほうに期待したいですが、それは希望的観測で、やはり日本としては一定の備え、考え方を整理しておく必要がある。「核実験をする」のは多分、彼らは最後のカードと考えているわけですから、それならばこちらも腹を据えて問題の解決を図らなきゃいけない。
 また、その場合、幾つかの基本的な原則があります。ひとつは、北朝鮮を除く 5 者(日米韓中露)の連携を大事にすること。先ほど私は、北朝鮮は“戦場の論理”と言いましたが、彼らは「どこに穴があるか」を探す。そして、穴があると手を突っ込もうとする。だから 5 者の連携は今第一に考えるべき大事なことです。もちろん、強い措置を取ることも場合によっては必要でしょう。しかし、何といっても重要なのは中国とロシアを巻き込んだ形にすること、それが求められています。
 2 つめの原則は、問題を解決するには、北朝鮮の政権の政策自体を根本的に変えさせる必要があるということ。核の問題だけでなく、拉致にしてもミサイルにしても、北朝鮮の問題はすべて同じ根っこにある。したがって日米韓中露と北朝鮮を入れた 6 ヵ国協議の中で、米朝が協議する。2 国間の直接対決でなく、6 ヵ国協議の中でそれをやる。相当、深刻な思いで交渉をしなければいけないでしょう。
 3 つめは、解決の方法は包括的でなければいけないこと。先ほども言ったように北朝鮮の問題はすべて同根で、すべて体制のなせる技、だからこそ包括的にやる。ちなみに昨年 9 月に共同声明が出ていますが、あれも包括的解決のシナリオです。「将来的な正常化を視野に入れている」という展望を与えたうえで、「今の問題を解決しよう」ということです。
 私は、日本政府には、この 3 つの原則を腹の真ん中に据えてほしいと思っています。
 それから、もうひとつ。脅すわけではありませんが、同じようなことが前にも起こっています。1994 年に「一次核危機」というのがあり、私たちは国連で制裁を行なおうとした。3 段階の制裁。ところが、中国が拒否権を使うという。すると米国なども「それじゃ、ライクマインド(like-mind=同じ考え)で…」となってしまう。そしてその瞬間、北朝鮮は「経済制裁の実施は宣戦布告とみなす」という声明を出した。
 つまり安全保障というのは、一定の蓋然性があったら「いやぁこれはブラフ、脅しだ」では済まされない。したがって制裁をやるからには準備もいるわけですが、当時は何もなかった。有事法制もなければ、周辺事態法も何もない。日本は法制の備えが何も準備できていなかった。しかし、今は幸いにも、さまざまな法制の準備があります。私は脅すわけでも、それを大々的にやるべきだと言うつもりもないのですが……しかし、それでもやはり日本の守りは“万全を期す必要があるのではないか”と思っています。


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2006年12月4日(掲載)
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