協会の活動状況・会員からの寄稿
SYMPOSIUM_7

アメリカ・イスラム・中国  新政権の日本外交を語る
9・11から5年——激動の国際情勢を多角的に分析


 わかりました。田中さんにも幾つか質問がきています。ひとつは、韓国が国連総長を出したことです。それによって韓国の存在感は随分違ってくるのではないか、それをどう捉えるか? それからもうひとつは、これはすごく直接的ですが、北朝鮮の崩壊の可能性についてです。まずこちらの質問に簡単にお答えいただいて、そのあとに、安倍政権がこの局面で日中・日韓首脳会談をすることに敷衍(ふえん)して、田中さんのお考えをお願いいたします。

田中  私は、実はかなり前から韓国の潘基文(パン・ギムン)外交通商部長官を国連総長候補として日本は支持すべき、ということを公言してきました。何故それを言ったかというと、やはり物事には日本だけの力ではどうにもならないことが一杯ある。むしろ、いろんな国際関係を活用して、そのなかから日本の戦略を立てるということもしなきゃいけない。そして私は、韓国という国は、この地域の中で、基本的に日本との共通利益がもっとも多い国だと思っています。
 ですから、それを日本は活用しなきゃいけないと思うし、また活用するときの工夫も幾つもあると思う。単純に、韓国の今の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権は変だというような考えはやめたほうがいい。たとえば、国内でインターネットを見ながら仕事をしているとか、どんどん国内が左に寄っているとか…。むしろ、そんなことより、私は、韓国を日本が変えられると思う。つまり、韓国を引き込むことによって創れる社会がある、と思っています。
 それから、もうひとつの北朝鮮の問題。これについても日本は、韓国ときちんと話をしなければいけないと思います。さっきも言いましたが、北朝鮮は常に“戦場の論理”で動いていますから、何処に穴があるかを目ざとく見つけて、それを利用しようとする。したがって、少なくとも 5 者間の隙はつくってはいけない。そのためにも、韓国とはきちんと話をしなければいけない。アメリカと話をすることだけが、すべてではありません。したがって今、こうした首脳外交があることは非常に結構なことだと思います。
 また、北朝鮮の崩壊。これについては、むしろ「北朝鮮が崩壊した結果、日本はどうなるか?」のほうが、より正しい課題ではないかと思います。「北朝鮮の今の体制が崩れて静かに南北の統一ができれば、これに越したことはない」という議論はあるかもしれない。しかし、それによってできた“南北朝鮮”がどんな政策を採るのか、この地域の地政的状況をどう変えていくのか——そして、それが日本にはどういうインパクトを与えるのか、やはりすべてを含めて考えなければいけない。
 結論的に言えば、まぁ北朝鮮は崩壊したほうがいいのかもしれません。しかし、そのコストはできるだけ小さな形でそうなってもらいたい。また、その可能性も無くはない。1996 年に「日米安全保障共同宣言」をした際に、アメリカと毎日のようにやっていたのが実は北朝鮮の将来のシミュレーションだったんです。そして「 10 年後はきっと潰れている」というのが当時の結論だった。ところがまだ潰れていない(笑)。ですから、そういう意味では「包括的に解決するソフトランディング」がどの国にとってももっとも好ましいシナリオですから、そういう方向に導くにはどうすればいいかを考えるべきだと思うんです。
 それから、安倍政権に望むこと。主張するのは結構ですし、基本的な社会の構造はそうやって変わっていくことも間違いないですが、しかし外交の場合は相手がいるわけですから、その意味ではやはり“結果をつくる外交”でなければいけない。そして日本という国は、国分さんも言われたように、やはり周辺国から見れば“すごく豊かで立派な国”なんです。だからこそ、もう少し寛容でなければいけないとも思う。また寛容であることは“融和的”という意味ではありません。ただ、リーダーというのは、相手のことも考えるという、ひとつの哲学が必要です。面と向って相手とくちばしを突き合わせて議論、主張することだけが外交ではない。


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2006年12月31日(掲載)
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