協会の活動状況・会員からの寄稿
SYMPOSIUM_3

アメリカ・イスラム・中国  新政権の日本外交を語る
9・11から5年——激動の国際情勢を多角的に分析


田中 あえてアメリカを弁護すれば、イラクでサダム・フセインを叩く、あるいはアフガニスタンでアフガン支配のタリバンを叩くというのは、それはひとつのアメリカの課題というか、正しい側面ではあったのだろうと思います。ところが、サダム・フセインを打倒した途端に違う戦争が始まった。その戦争というのは、いま言われた“テロとの戦い”ですとか、非政府主体が地下に潜ってやるような戦い、つまりこれは“政治的な戦い”だと思うのです。ですから、政治的な安定や貧困などを集中的に手当てしていかないと、なかなか戦争には勝利できないし、地域に安定をクリエイトすることも、つなぐこともできない。同じことがアフガニスタンでも起こっているし、イラクでも起こっている。その意味ではいま、本当に必要なことは政治的なプロセスをどんどん進めることであり、あるいは経済的な面からの支援を強化する必要もある。最初が間違っていたわけではなく、途中で戦争の局面を変えなきゃいけなかった、ということだと思います。

 西川さんにお聞きします。アメリカはイラク、イラン、シリアを「悪の帝国」と呼んだわけです。また、北朝鮮も含めて「テロ国家」と、どれも国を対象としたイメージです。しかし一方で、酒井さんが言われたように、本当にテロを潰すのはイギリスとパキスタンの連携みたいなやり方だ、という考え方もあります。つまり“国家を叩く”ことと、テロの問題は、どのように考えたらいいのでしょう。たとえば、中東やイスラムの人だって、それを一緒にされるのは迷惑だと思うのです。
 それからヨーロッパではそのあたりをどう考えているのでしょうか? イスラムあるいは中東の国々に対し、アメリカとは違った見方をしているのでしょうか? たとえば先ごろ、パキスタンのムシャラフ大統領は、2001 年にアメリカのアーミテージ国務副長官に「アメリカに協力しなければ空爆の覚悟をしろ。石器時代に戻してやるぞ」と脅かされていたことを CBS のインタビューで明らかにしました。そういうのを見ると、何かそこに感じるものがあります。何故、わざわざ今ごろムシャラフ大統領がそれを言ったのか? つまり、アメリカに力では反抗できないけれど、国家としての自尊心や体面を傷つけられたら……というような、あるいはテロと国家の問題の違いだとか。たとえばヨーロッパは、そのあたりをどう考えているのでしょう?

西川 テロとの戦い、9・11 以降にヨーロッパ社会がどう変わったかということですが、2 点申し上げたいと思います。ひとつは「移民対策」についてです。昨年 7 月、ロンドンで同時テロが起こり、10 月末にはフランスのパリ郊外で移民系若者らによる暴動が起きました。すると、ヨーロッパの国々はこれまでそれぞれのやり方で移民の同化政策をやってきたわけですが、実は、彼らは同化していなかった。よき国民として移民を同化させようとやってきた自分たちの意図が破綻してしまった、という思いを、ある種ヨーロッパの国々の政府は抱いているわけです。
 どういうことかと言いますと、9・11 が起こったとき、その時点ではヨーロッパの人たちの見方は、要するに彼らは“イスラムの過激派”ということでした。自爆テロ犯たちは一時ヨーロッパにもいたが留学生とかそういう形で、その後、彼らはアメリカに渡って飛行訓練をして、そして突っ込んだ。つまり、彼らはヨーロッパに住んではいたけれど一時的な滞在者にすぎず、そもそもは“異質な分子であった”という思いです。ところが昨年来起こっている事件は、移民の二世、三世が引き起こす反乱・暴動・テロであった。自分たちの社会の中からも異質な人間たちが実は育っていた、ということを彼らは思い知らされたわけです。
 イギリス、フランスと、それぞれの国の同化政策の内容は違っていましたけれど、期せずして両国でそういう事件が起こった。移民を本当に同化させるにはどうしたらいいのか、と真剣な議論が起きたのは当然のことだろうと思います。
 それから、ヨーロッパが直面しているもうひとつの問題は「監視社会」です。先ほど酒井さんが言われたことにも関係がありますが、つまりテロリストたちは“自分たちの社会の中にも潜んでいる”という状況。その結果、監視カメラを付けたり、盗聴したり、尾行したりということが始まった。かつてのヨーロッパは、実態はさておき、表向きには「人権」「民主主義」の建前をきちんと守りながらやってきた。ところがいまや、そのヨーロッパでどんどん監視を強めているということが起きている。なかでも、もっとも大きな特徴は“世論がそれを支持している”こと。世論調査をすると、「もっと監視を強化してほしい」「治安悪化は困る」というような調査結果がたくさん出てくるわけです。


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2006年12月16日(掲載)
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