協会の活動状況・会員からの寄稿


カイケイさんと中国の旅へ

松嶋 文雄
 
 日本ウズベキスタン協会の“トークの会”などで、多くの留学生の方から、それぞれのお国柄の話を聞かせていただき、心あたたまる国際交流に楽しく参加しています。
 中国・上海から来ているカイケイさんもその一人。昨年の新年会の席上、嶌会長を介して知り合いました。中国に興味を持っていると話をしたところ、ぜひ一度いらしてくださいとのことでした。
 長く詩吟をやっていることから漢詩に興味を持つ私は、寒山寺で住職の墨蹟を貰いたいと、かねてより思っていたのです。それと、大虐殺の地・南京を訪ねてみたかったのです。
 今年七月、本会の事務局を通じて、カイケイさんから夏休みに帰国するので同行しないかとのお誘いをいただきました。
 もちろん喜んで行きたい。けれども、目の見えない私です。一度しか会ったことのない彼女に介助をお願いできるだろうか。不安が胸をよぎりましたが、カイケイさんの熱意に支えられて、話はどんどん進んでいきました。
 九月十一日午前十一時。上海から高速バスとタクシーを乗り継ぎ、観光客で雑踏する寒山寺に到着。にぎやかな土産物屋の売り声をよそに、私たちは本堂を目指しました。人混みを掻き分け、階段を上ったり下りたり。カイケイさんは、慣れぬ介護に緊張の連続で、いつもの落ち着いた彼女とは思えぬ、ほとんど悲鳴に近い声を上げていました。運良く住職の秋爽さんに会うことが出来、張継の「楓橋夜泊」の一篇を書いてもらう運びになりました。
 掛け軸にしたいのですが、通訳する彼女は現代っ子。私の言うことがなかなか理解できません。しまいに私が、言葉は通じないながら触って紙質を選び、幅・長さを指定、てんやわんやのうちに望みを叶えることができました。
 終わった途端に椅子に座り込むカイケイさん。「松嶋さん、ああ疲れた!汗びっしょり」と言って、私の手を肩に触れさせました。
 同日午後四時。蘇州発。特別急行列車で二時間あまりの南京西駅に到着。車中でカイケイさんから、「南京は反日感情の強いところらしい。日本語での会話は小さい声で」と言われていたので、不安と緊張で降り立ちました。
 折しも台風十五号が上陸、駅頭は暴風雨を避ける人で溢れています。「どちらへ行かれるのですか?」と、女の人から声を掛けられました。ホテルを探していると言うと、「今、主人が車で迎えに来るのでよければ一緒に探してあげましょう。」
 「このホテルでどうですか?」すすめられて、様子を見るためにカイケイさんが車から下り、私が一人残されました。そこへ、男が来て何か言うと、車が動き出すではありませんか。どこへ行くのだろう。身ぐるみ剥がれて揚子江へでも投げ込まれたらどうしよう。
 やがてカイケイさんが戻り、聞けばなんのことはない。ホテルの前なので車を移動しただけのことでした。
 冷や汗をかいた後なのでよけいうれしい気持ちでフロントへ向かった私たちに、係の女性が冷や水を浴びせました。「あなた、日本人ですね。パスポートを見せてください。ビザが発行されてないので、泊めるわけにはいかない」。カイケイさんは、日本と中国間にはビザ無し渡航ができると必死に説明するのですが、聞き入れません。押し問答の末、宿泊は認められたのですが、問い合わせた結果によっては、部屋に踏み込むと威圧されました。日本人に対する南京の人の感情を見せつけられた気がしました。
 三十分ぐらい揉めたでしょうか。カイケイさんは激怒。向こうも負けず劣らず、カウンターを叩きながらの応酬でした。その後の食事中も、彼女の興奮はさめません。「中国は広い国だから、法律の改正などが伝わらないんじゃないの、無理ないよ」と、慰め役に回りました。
 上海、十三日の夜。彼女の母親が入院中だったので、おばさんの家で歓迎会を開いてくれました。親族に近所の人たちも加わって、三十名も集まりました。大皿には蛙の腿(もも)だの、得体の知れない何かが山盛りです。「これを食べれば百歳まで生きるよ」。おばさんが手際よく作って次々と出してくるのは、中国の庶民の味なのでしょう。同じようにもてなしの得意だった亡母を思い出しました。
 宴もたけなわ。私が李白の『江南の春』を朗詠すると、皆さんも一緒に口ずさんでいます。「あなたは人をよく信頼する心を持つ人ですね」と、どなたか。「日本の文化の故郷である中国を、非常に親しく感じています」と、私。酔ったどなたかが上半身裸になって「日本の友よ。これからも裸のつき合いをしましょう」と、私を抱きかかえました。燃える頬をうれしく感じました。
 カイケイさん、素晴らしい旅を有り難う。
 私の持論、「心が通い合えば、介護に技術はいらない」を、証明してくれる人がまた一人増えました。
 
2005年12月8日(掲載)
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